


経営品質
カンリさん(以下カ):おはようございますっ、せつびさん! 早速ですが、今期の会社方針(図表ー1)に質問があります!
せつびさん(以下せ):おはようございます。カンリさん。どんな質問ですか?
カ:会社方針の最初の「環境変化に対応した製品開発力の強化」は、今の自動車業界での技術変革への対応力を強化することですよね?
せ:そうだね。電動化やつながる車など、自動車業界は100年に一度の変革期を迎えたとも言われているね。いろいろなシステムが考えられているけれど、それに応じて、生産設備も大きく変わる可能性があるから、われわれにも無関係ではないのさ。
カ:そうなんですね。今生産している製品や設備が変わることはとても心配ですが、それに対応できないと大変なことになってしまうのですね。では、次の「設備の極限利用によるコスト低減」は私たちの仕事に直接関係する方針ですよね。
せ:そうだね。これまでもロスを削減して設備のフル活用に取り組んできたけど、今期は、さらに力を入れて取り組むという会社の明確な方針だよね。
カ:会社方針に掲げられていますので、さらに設備のロス削減、設備の極限利用に取り組んでいきます!
せ:がんばりましょう!
カ:最後の「経営品質の向上」ですが、私は品質とは製品の品質のことだと思っていました。経営にも品質があるのですか?
せ:よい質問だね。カンナさんは「Quality of Life」という言葉は知っているかな?
カ:はい、知っています。クオリティオブライフって、「人生の質」とか「生活の質」っていうことですよね。
せ:そうだね。一般的には生きていく上での満足度、快適さを表す概念だね。本来、英語の「Quality」は「質」のことを指しているんだ。狭い意味での「品質」は「製品の質」のことだけど、広い意味の「品質」とは、「質」と言い換えてもよいかもしれないね。われわれが目指している「製品やサービスの質」は、「仕事の質」や「組織の質」、「人材の質」そして「経営の質」などさまざまなものに支えられているんだ(図表―2)。土台がしっかりしていないといけないんだ。
カ:なるほど。それで、会社方針に「経営品質の向上」が掲げられているのですね。納得です。

「環境変化に対応した製品開発力の強化」
自動車業界は、電動化やつながる車、自動運転など100年に一度の変革期を迎えています。電動化やつながる車、自動運転など、今の自動車業界は100年に一度の変革期を迎えています。とくにパワートレインでは、今までのガソリンエンジンやディーゼルエンジンの内燃機関に加えてハイブリッドシステムやモーターを使った電気自動車が開発されています。そのモーターに電気を供給するバッテリーにも今までのリチウム電池に加えて全固体電池、水素を使った燃料電池、内燃機関を発電機として使用するものなど多くの企業で研究開発に取り組んでいます。さらには従来の内燃機関システムでも水素を燃料とした水素エンジンなどさまざまな技術開発が進行中です。
「設備の極限利用によるコスト低減」
自動車業界における品質マネジメントシステム規格ISO/ TS16949でもロス削減による設備の極限利用に取り組むことが求められています。例えば設備総合効率の向上を結果系指標、MTBF(平均故障間隔)やMTTR(平均修理時間)をプロセス指標として計測し、それらを改善するために計画保全や予防保全、予知保全を行うことで、稼働率を向上させ、故障時間を大幅に削減し、コストダウンを図ることが必要です。
「経営品質の向上」
品質とは製品の質だけではなく、仕事の質、組織の質、人材の質、経営の質など、さまざまな要素に支えられています。そのため、「製品やサービスの質」だけを考えて改善に取り組んでもなかなか成果は得られません。「製品やサービスの質」を支える仕事の質、組織の質、人材の質、経営の質を向上させることで、製品やサービスの質が向上し、業績の向上にもつながります。ある企業では、人材の質向上のために、社内研修制度や研修内容を見直し、定期的かつ継続的に研修を実施しました。その結果、社員のモチベーションが向上し、仕事の質が向上し、生産性が改善され、業績が大幅に向上しました。

品質とは
せ:ところで、カンリさんは品質の定義を知っているかい?
カ:いえ、知りません。
せ:品質は、「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義されているんだよ。
カ:ん~、よくわかりません。
せ:定義だからね。もっとわかりやすく言うと「お客様の要求や期待を満たす程度」ということができるかな。
カ:私は直接お客様と会ったこともないし、要求も聞いたことがないです。
せ:それは、われわれの製品を買っていただいているお客様のことだよね。最終的に製品やサービスをお客様に提供するために、社内で多くの部門、業務が相互に関係しあって、お客様の期待する製品やサービスを生み出しているよね。良い製品やサービスを生み出すためにはそれぞれのプロセスが正しい成果を生み出す必要がある。そしてそれぞれのプロセスが後工程の期待する成果物を提供できる仕組みをつくることが大切なんだ。それをプロセスアプローチと言うんだ
カ:そうなんですね。知らなかったです。
せ:では、「後工程はお客様」という言葉は知っているかな?
カ:聞いたことはあります。だけど、自分の業務について考えたことはありません。
せ:それなら、今考えてみよう。私たち設備管理課のお客様はだれかな?
カ:製造部門のみなさんです!
せ:そうだね。設備管理課のお客様は設備を使っている製造の人たちだ。カンリさんは、製造の方がわれわれに期待していることや仕事の結果に満足しているかを製造の人に聞いたことがあるかな?
カ:ありません。
せ:一度、製造のみなさんに聞いてみたらどうかな? これが設備管理課の「仕事の質」向上につながることだからね。そして、お客様に期待する成果物を提供できるように、「必要な道具/設備」「必要な手順・ルール」「必要な力量」「必要なプロセス指標(KPI)」を考え、それらの継続的なレベルアップが重要なんだ。これをタートル図(図表―4、5)というんだ。
カ:わかりました。お客様である製造の方々の意見を伺い、不満や不十分な点を日々改良、改善していくことですね。
せ:その通り。それがわれわれの「仕事の質」向上につながり、各部門が「仕事の質」を向上していけば、必ず「製品やサービスの質」が向上するはずだ。その結果、業績が向上し、我々従業員の賃金やボーナスの増加につながるんだ。
カ:やったぁ! 次のボーナスが楽しみです❤
「プロセスアプローチ」
プロセスアプローチとは、製品やサービスをお客様に提供するまでの一連の流れをプロセスととらえ、プロセス同士の相互関係の連続からなるシステムとして考え、仕組みを構築し、各プロセスを効率的に運用することです。たとえば、インスタントラーメンをつくる場合も、調理プロセスを(図表―3)のようにサブプロセスに分解することができます。

「後工程はお客様」
「後工程はお客様」とは、「お客様である“後工程”の要求・期待を理解し、後工程に喜んで頂ける製品やサービスを提供すること」を意味しています。後工程とは、自分の仕事の次の工程のことです。自分達の仕事の成果物を使って付加価値を付ける後工程は、お客様だと思って接することが非常に大事な考え方となります。そのためにも後工程が期待する成果物を明確にし、成果物が後工程の期待に合致しているかを各工程で自らチェックすることが必要です。品質に関するマネジメントシステム規格であるISO9001でもプロセスアプローチという手法で、顧客に提供する製品やサービスをプロセス(工程)の連鎖と考え、それぞれの工程で後工程が期待する成果物(Output)を出すことで、最終的な製品やサービスの品質が保証される仕組みを作ることを要求しています。
「タートル図」
各プロセス、サブプロセスについて、「Input」、「Output」、「必要な道具/設備」、「必要な手順」、「必要な力量」、「必要なプロセス測定指標」を下記のような図で表します。亀の様子に似ているため「タートル図」とか「タートルチャート」と呼ばれています。

設備管理を1つのプロセスと考えると一般的には下記のようなタートル図が考えられます。

図(例)
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